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【個性派研究室セレクション】 VOL.1 地域デザインコース 考古学研究室 山口雄治 准教授

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大学院社会産業理工学研究部 社会総合科学域 地域科学分野
准教授 山口 雄治(やまぐち ゆうじ)

 

徳島大学の個性あふれる研究室を厳選して紹介する「個性派研究室セレクション」。大学進学を考える中高生をはじめ、学内外の方にも、研究内容や学びの魅力を知っていただくため、できるだけわかりやすく発信していきます。
第1回は「とくtalk」No.202(2026冬号)の特集にあわせて、総合科学部の地域デザインコースにフォーカス。2025年に徳島大学に着任された山口雄治(やまぐちゆうじ)先生が担当されている「考古学研究室」を紹介します。(取材/2025年12月)

「かつて人類がどのように暮らしていたか」、3つの異なる視点で迫る

考古学は土器や住居跡などの物質的証拠から、過去の人類の営みや社会のあり方を読み解く学問です。 
山口先生の研究の柱は大きく分けて3つあります。 
1つ目は、日本の縄文時代から弥生時代にかけての社会変化に関する研究です。狩猟採集社会から農耕社会へと移行する過程で、村落の構造や人々の暮らしがどのように変化したのかを中国?四国地方を主なフィールドとして明らかにしています。 
2つ目は、トルコを中心とした地域での国際的な調査研究です。トルコをはじめとする西アジア地域は人類史上はじめて農耕が生まれた土地であり、都市や国家が誕生した地域。トルコ中部にある古代都市遺跡?キュルテペ遺跡の発掘調査に参加し、都市形成のプロセスを実証的に解明しようとしています。 

 

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トルコのキュルテペ遺跡の発掘調査風景 

 

3つ目は、考古学の方法論をアップデートする取組です。三次元記録によるデジタルドキュメンテーションやGIS(地理情報システム)を用いた空間情報分析など、デジタル技術を活用することで、考古学研究をより定量的で再現性の高いものへと発展させることを目指しています。

遺跡や構造物を高精度な3D モデルとして再現!考古学の方法論を刷新  

今回、ピックアップして紹介したいのは、3つ目の「考古学の調査手法そのものを刷新する研究」です。従来の考古学は、発掘現場での記録や測量は、方眼紙に手描きで図面を起こす方法が主流でした。しかしこの方法では、空間の細かな凹凸や構造を正確に記録することが難しく、作業にも多くの時間と労力がかかっていました。 
そこで山口先生は、遺跡や遺構を三次元で記録するデジタルドキュメンテーションの手法で、これまでとは違ったアプローチを試みています。

 

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デジタルドキュメンテーションとは、文化遺産をデジタル形式で取得?保存する手法です。例えば、デジタルカメラで数百枚の写真を撮影し、それらを専用のソフトウェアで解析することで、遺跡や構造物を高精度な3D モデルとして再現します。遺跡の範囲が広い場合や地形が複雑な場合にはドローンを用いた空撮を行い、空間全体を立体的なデータとして保存することも可能だそう。 
また、最初からデジタルデータで記録しているので、GIS と連携させることで、遺跡の地形や環境、遺構の配置を定量的に分析できます。これにより手描き図面では難しかった「空間の再現」や「周辺環境を含めた遺跡間の比較」「統計的な検証」も行いやすくなりました。 
この夏(2025 年)は、徳島市国府町の矢野の古墳(県指定史跡になっている大きな横穴式の石室をもつ古墳)を測量調査し、ゼミ生たち自身が撮影した写真で3D モデルを作成したそう。 
こうした遺跡の平面図や文章だけでは伝えきれない情報を、より直感的で分かりやすいビジュアルとして残す研究も進んでいます。 

 

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徳島市矢野の古墳の測量風景

地方自治体に欠かせない発掘調査を担う専門職 

考古学研究室では、学芸員の資格が取得できるので、卒業後は博物館の学芸員として働く人もいます。 そういうと、「学芸員以外の仕事があるか?」と思われるかもしれませんが、実は、公務員として働く人が多いといいます。 
「意外と知られていないのですが、発掘調査を担う専門調査員は、全国に数多くいます。教育委員会や各行政の文化財担当として就職することが多く、たとえば大規模な自治体では、数十人単位で専門職員が配置されていることもありますし、小さな自治体でも、一人または二人は配置されていることがあります 。一時期は採用枠が少なく、“狭き門”と言われた時代もありましたが、近年は募集が比較的安定して行われています」という山口先生。 
専門調査員は、道路や建物などのインフラ整備を進める前段階で行われる発掘調査を担い、地域の歴史や文化財を守るという重要な役割を果たしているのだそう。開発と文化財保護を両立させるために欠かせない存在として、活躍が期待されています。 

徳大で考古学を学ぶメリット 埋蔵文化財調査室との連携 

徳島大学の常三島、蔵本、新蔵のキャンパスはどれも遺跡の上に建っています。そのため、徳島大学では独自に埋蔵文化財調査室を設け、徳島大学構内に立地する遺跡の調査?研究を行い、その成果を大学教育や地域貢献(出張講義など)にも活かしています。 
山口先生は埋蔵文化財調査室の副室長としても、考古学研究室と連携しながら教育?研究に取り組んでいます。 
 

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徳島大学構内から発掘された器

 

「埋蔵文化財調査室と連携していることで、発掘調査で得られた遺物を自らの目で見て、手に取り、正しい扱い方を学ぶことができるほか、調査室に蓄積された豊富な資料も活用できます。今後、状況が整えば、学生を実際の発掘調査現場に同行させ、現場に根ざした学びへとつなげていくことも視野に入れています」。 
2026 年2月27日まで、ガレリア新蔵第37 回企画展「大学の遺跡からみた徳島の歴史-弥生集落と近世武家屋敷を中心に-」が行われています。学生だけでなく一般にも公開されていますので、考古学や遺跡に興味のある人はぜひ、足を運んでみてください。 


第37回企画展 「大学の遺跡からみた徳島の歴史-弥生集落と近世武家屋敷を中心に-」
開催期間:2025年11月4日(火)? 2026年2月27日(金)
会場:徳島大学日亜会館1Fガレリア新蔵ギャラリーフロア?展示室(徳島市新蔵町2丁目24番地)
※詳細はこちら
/gs/docs/65468.html
 

■埋蔵文化財調査室公式ホームページ
https://tokudaimaibun.jp/

■YouTubeチャンネル 徳大埋文ちゃんねる
https://www.youtube.com/@tokudaimaibun 

山口先生からのメッセージ

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「私自身の研究分野のうち2つは、日本と海外の両方でフィールドワークをしています。なので、考古学研究室で『日本の考古学をやりたい』と言われれば、それには十分対応できますし、例えば『世界史で習ったオリエントに興味があって、海外の発掘に参加してみたい』という希望があれば、それにも応えられる可能性があります。 
これまで私が関わってきたプロジェクトとしては、中央アジアのウズベキスタンやキルギス、インダス文明のあるインドやパキスタン、さらにサウジアラビアの隣にあるバーレーン、エジプトなどの先史?古代遺跡の考古学調査があります。こうした海外のフィールドに関わる機会は今後も広がっていくと思います。学生さん本人に強い興味があれば、一緒に現地に行って調査をするということも、十分に考えられると思っています。 
日本については、私の専門が縄文時代から弥生時代なので、国内での発掘をするとすれば、その時代の遺跡が中心になると思います。どの遺跡を掘るかは、まだ検討中の段階ですが、近い将来、日本でもフィールドワークを進めていくつもりです。日本でも海外でも、関心に応じて柔軟に対応できる研究環境だと思っています」。

 

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歴史や古代に関心がある人は、一般教養科目の「考古学概論」が入口としておすすめ。2年生以降は「考古学概説」で、旧石器時代から古墳時代終末までを通史的に学ぶことができます。さらに「考古学方法論」では、発掘調査における基本的な考え方や調査手法について学ぶことができるそう。 
また、夏期集中講義の「考古学実習」では、実際の発掘調査に参加し、現場を体験します。あわせて、発掘によって出土した土器や石器を記録?整理する演習科目を履修することで、考古学研究における基礎的なプロセスを、実践を通して身につけることができます。 
出土品や調査成果を手がかりに、社会の成り立ちや変化を総合的に考察する力を養う考古学研究室。興味を持った人はぜひ、研究室へ立ち寄ってみてください。